令和工藝では、少し先の未来にいち早くアクセスした(かもしれない)人達との交流を大切にしています。その人の目には、どんなステキな世界が映っているのでしょうか。インタビューを通して、まだ見ぬ世界の一端に触れられたらと思っています。
第1話目は、弊社CEO/COOの島谷直志(しまや ただし)に直撃インタビューです。テレビや街角で目にしたあのロボットも、そのロボットも、島谷がこの世に召喚した一台の子孫…かもしれません。
目次
・私の頭の中の3D CAD
・机回りの不審物
・魔導書? いいえ、ケフィアではなく、パーツの見本です
私の頭の中の3D CAD
―― こんにちは!そのデスクで新しいロボットが設計されているのですね!
島谷:おぉっと、画面は写さないでくださいね。
―― 先ほどから覗いておりましたが、操作が早いというか、迷いが無いといいますか、スラスラと作業されていましたね。
島谷:形としてはパソコンと画面で、手にはマウスを持っていますが、要するに「紙とペン」なので。長く使って慣れているのもありますが、一番便利な紙とペンが3D CADかな。
でも、実際に3D CADで描く段階で設計の大半は終わっていて、確認の作業に近いので。3D CADは便利な具現化ツールですね。設計師以外の人とイメージを簡単に共有できるのも利点かな。
図面は第2の世界共通言語なので、翻訳機なのかもしれません。同時に設計者の想像力の精度を上げてくれます。なので、3D CADは頭の中で構成した三次元の物体を「手っ取り早く頭の外に出す」手段として、今のところ一番適している道具だと思います。
―― 頭の中の3D映像は、どのように作り上げていくのですか?
島谷:大きさや形と同時に、質量や応力、材質を想像しています。「こんな外観のロボットをこういう風に動かしたいなぁ」や、「持ち運んで使うから電源は電池かな…」など、同時進行で組み立てます。
頭の中で、3Dのキャラクターが動くゲームの設定画面を思い出してみてください。キャラクターの姿や装備を自由に入れ替えて、頭のてっぺんから見たり、右に回転、左に回転させながらスタイルをチェックしたり、すると思うんですよね。そこに、慣性や振動、加速度のようなリアルな環境や、運用時の組み立てや人間が触るなどの外力(外乱)も想像します。ここがゲームプログラムやシミュレーターと似ている感じがします。さらにコスト、納期まで考えるので、特注ロボット設計師はちょっとマゾ的ですね。
―― CADの画面と同じことを、1瞬の遅れもなく頭の中で想像する感じでしょうか。
島谷:私の場合はメカニカルな部分が変に干渉することが無いよう、内側からの様子や動作中の様子も想像しています。
「あー、この部品形状だと2か所の首動作組み合わせたら頭が上に向いたときに0.1ミリはみ出しちゃうから、構造や構成を変更しよう。でもやばいな、コストがかかりそう」とか。
想像の精度が悪いと、3メートル級のロボット設計で、0.5ミリのスペースに泣くことが多い。”設計あるある”ですね。
―― ちょっと何をおっしゃっているのか分からないのですが(汗
そういうことは、一般の人、例えば私のような者には真似どころか想像もできない世界です。敗北感すら湧きません。
島谷:経験値というにはそれだけではないですが、とにかく想像力の修練は、あらゆる事象や予測の再現にとても適したスキルと思います。子供の頃、使いかけの消しゴムを怪獣に見立てて、ずーっと戦闘場面を想像するとか、大きな三角定規を宇宙船に見立てたりしていました。そういうエピソードは時々聞いたことがあるでしょう?ものづくり系の人と話をすると、割と出てくる思い出です。
想像か、妄想か、とにかく頭の中で形や動きを組み立てては眺め、動かすことを繰り返してきました。その積み重ねが私の頭の中で3D CADのような機能になったわけです。この特技が、私が特注ロボットを設計する際に強みとなりました。3次元的な視覚認識と想像精度が周りより高かった気はします。
机回りの不審物
―― 人間そっくりのアンドロイドや巨大な恐竜、ぬいぐるみロボットの他、さまざまなロボットをゼロから設計して作ってこられたと伺っています。きっと、メカや生き物に関する資料が大量にあるのではないかと期待して来たのですが、見当たりませんね。
島谷:これは現在会社に持ってきてないだけで、以前の会社に資料はけっこうありました。
その都度「設計対象」のいっちょかみ専門家になる必要があったので。私の過去の職は、そういった学術的にもリアルにする必要がありましたから。
―― いっちょかみ専門家?
島谷:その業務中に設計対象の最新の正しい認識と知識を叩き込むんです。その情報を全スタッフと共有してロボットを作ります。外観と中身は全く別の論理で作りますが、表現するという目的においては共同作業になります。互いの技術のすり合わせ、ここが一番重要です。そのうえで人の目に触れる外側の見た目と動作(モーション)が一番いいバランスで再現できるメカを入れ込みます。ここが腕の見せ所。主に外側は造形師が、中は私のようなメカの技術者が分担することが多いですね。
もちろん外装だけでなく、動作、音、光、設置場所、などあらゆるファクターを知っていないとメカ設計はできません。それだけに出荷後のロボットの運用面もイメージして設計します。
余談ですが、前職は、案件のプロデューサーのように工程管理や仕様設定もしていました。そういった上流工程ですので、自分のミスは下流工程に多大な迷惑をかけてしまうので、責任の重圧が半端なかったです。
だから、私は前例のないモノづくりばかり行う特注メカ設計は「決断する仕事」と考えていて、責任のリスクを全部かぶってでも自信をもって判断できる「胆力」も必須条件と思っています。
そこで、その判断の根拠とするため、本や雑誌といった資料と同じかそれ以上、こちらの資料も私にとっては重要になります。
―― ロボットの材料ですか?
島谷:さまざまな素材のパーツです。といっても、これらの部品を使ってロボットを組み立てる訳ではありません。これらは、素材や重さ、硬さ、厚さなどの基準として脳内に取り込んでいる情報の元となっているものです。
例えば、
アルミの1ミリ(の厚さの板)と鉄の0.2ミリは同じくらいの強度になるのだけど、重さは三乗。なので、ある部品を鉄で作るかアルミで作るか、重さを取るか、強度を取るか?みたいな選択が常について回ります。
さらに、これはただの平らな板の場合。折り曲げて「くの字」や「コの字」型になると、強度が変わってきます。そういった複数の部品形状や素材強度、構造強度にコストを加味したパターンテーブルから最適な組み合わせにしてあげるためには、まず素材についての膨大なデータが必要になります。
CADで描いて、構造計算のツールで強さや重さをシミュレーションして、という方法も勿論ありますが、計算には膨大な時間とコストが必要になります。全てをシミュレーションで選ぶ方法ではビジネスにならないことが多く、勘所をフル活用するために、どれだけ広く深く自分の引き出しを持っているかが肝になります。感覚的な情報を常にするどくキープしないといけません。ちょっと職人っぽい要素が重要になります。
なので、暇を見つけては指先でパーツをなぞり、硬さや重さを思い出すことを習慣にしています。
―― パーツデータのスキャンですか!?
島谷:そう言えるかもしれませんね。
皮膚感覚で素材の特徴や性質を知っておくと、組み上げにかかる時間を短縮することができます。特注で一点物のロボットは、特に納期に余裕がない事が多く、いつも時間が足りません。なので、迷ったり試したり、探したりする時間をいかに削れるかが最終的なクオリティーに影響します。
まさに設計業務における「決断する仕事」の一部といえます。
魔導書? いいえ、ケフィアではなく、パーツの見本です
島谷:ロボットに限らず、特注で機械モノを作る際に重要な知識があります。何だと思いますか?
―― 図面を引けることだけではない、何かですよね?
島谷:そうですね。
どんなパーツが、どこで手に入れられるか。これを知らないと、たとえ完璧な設計図があっても組み上げることはできません。特注ロボットの設計は大抵ほぼ一人で全ての分野のハードを設計します。そこで、『こういうもの』を置いているのです。
―― サンプル集!
島谷:例えばこれで実物と想像を照らし合わせて、型番で発注をします。特にばね類は、図面上省略されることが多く、実物を触ることで数値以外の情報を得られます。そこで得られたことは勘所として重要になってきます。
他にも、ケーブルの取り回しやコネクタの挿しやすさ、メンテナンスのしやすさなどなど、複数の観点から一気に考えてまとめ上げる。知っている部品の種類は多い方が、より望ましい結果に辿り着く近道だと思います。さらに欲をいえばどこで、いくらくらいで買えるかを知っていることも、仕事の速さであり、クオリティーだと考えます。
―― 最後に、ひときわ目を引く黄色いコについて教えてください。
島谷:この黄色いロボットはキーポン(Keepon)といいます。現在東北大学に在籍されている小嶋秀樹先生の研究で使うロボットとして開発され、その後一般販売も行われました。愛らしい姿とコミカルな動作で、幅広い年代のかたに可愛がっていただきました。
私はメカの設計段階から携わり、現在も可愛がっている1台です。
キーポンには研究室での実験で使うために作られたものと、量産化して一般販売されたモデルの2タイプが存在します。それぞれ、動作の要求やかけられる金額、丈夫さの条件に合わせて設計されています。もちろん、微妙に異なる部品が使われています。それらの使い分けや見極めも腕の見せ所ですね。
これからも、見た人が思わず笑顔になるようなロボット達を作っていきたいと思います。